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浦和地方裁判所 昭和56年(わ)912号 判決

被告人 中山清

昭三五・三・五生 左官見習

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一  公安委員会の運転免許を受けず、かつ、酒気を帯び、呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で、昭和五六年七月三〇日午前一時二五分ころ、埼玉県鳩ヶ谷市桜町二丁目二番二五号付近道路において、普通乗用自動車を運転し

第二  前記普通乗用自動車を運転し、前記日時に前同所手前の交差点を右折進行する際、ハンドル操作を誤り、自車を前記道路に接する同所所在の駐車場内に進入させ、駐車中の鳩ヶ谷タクシー株式会社(代表取締役矢島健一)所有の普通乗用自動車に衝突し、同車右側面を凹損(損害額約二三七、四六〇円)させる交通事故を起こしたのに、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告せず

第三  前記日時場所において、前記普通乗用自動車を運転中、前記衝突事故を起こしながら逃走しようとしたため、これを防ぐべく被告人運転車両の窓から両腕を差し入れ、被告人の右腕付近をつかんでいた矢島泰雄(当四二歳)に対し、自車を急に加速すれば同人が転倒するなどして怪我をするかも知れないことを知りながら敢えて急加速して進行し、危険を感じて被告人の右腕付近から手をはなした右矢島を駐車場内に転倒させる暴行を加え、よつて、同人に加療約二一日間を要する左上肢、左側胸部、左腰部、右膝部挫傷の傷害を負わせ

たものである。

(証拠の標目)

(前略)

なお、弁護人は、判示第二につき物損事故の結果発生地点は道路上でなく夜間は鳩ヶ谷タクシー株式会社が専用駐車場として借り受け使用し一般交通の用に供する場所とはいえないから、右物損事故につき報告義務を課することには疑問があるとの趣旨の主張をする。

成程、証人矢島健一の当公判廷における供述によれば、右駐車場自体は必ずしも一般交通の用に供する場所とは断じ難いけれども、前掲実況見分調書二通、自動車検査証写等関係証拠によれば、被害車両が駐車していた場所は判示駐車場が接する道路の側端から駐車場内に約二・三メートル入つた地点であるが、被告人は右道路手前の交差点を時速約四〇キロメートルで右折する際、ハンドルを右に切りすぎたため、右折進行方向の道路左側端の電柱に衝突しその反動で自車を左斜め方向に暴走させて前記駐車場内に進入させ、被害駐車車両に衝突する判示事故を惹起したもので、右被害車両に対する衝突時において、車両の長さ四・五二メートルの被告人車両の後部は少くとも道路に接着する地点にあつたことが窺える。そうすると判示衝突事故は、被告人車両の道路上の交通に起因し、道路外の駐車場とはいえ、道路に接着する地点で発生したものであるから、かかる場合右衝突地点に近接する付近道路上の交通に対する障害の有無、交通秩序回復の応急処置の要否を警察官に判断させる必要があると考えられるから、判示の報告義務を免れないと解するのが相当である。

次に、被告人は、判示第三につき逃走したい一心で自車を加速進行したもので被害者に危険を生ずるような事態を予見する余裕がなかつた旨弁解し、判示傷害の結果発生につき未必の故意を争うけれども、前掲矢島泰雄、被告人の検察官に対する各供述調書等関係証拠を総合すれば、被害者は被告人の逃走を防ぐ為被告人運転車両の窓から両腕を差し入れ被告人の右腕付近をつかんでいたのに対し、被告人は被害者をふり切つて逃走しようとして自車を急加速して進行したのであるから、それ自体被害者の身体に対し極めて危険な行為であること明白であり、被害者がその危険を避ける為被告人の右腕付近から手を離し路上に転倒するなどにより傷害の結果を生ずることもまた通常容易に予見できる事態と認められ、被告人について右予見を妨げる程の特段の事情は見出し難く、被告人が検察官調書において自認している判示傷害の未必的故意は十分認定できる。

(累犯前科)

被告人は昭和五五年六月一七日東京地方裁判所において覚せい剤取締法違反の罪により懲役一〇月に処せられ、同五六年五月二七日右刑の執行を受け終つたものであつて、右の事実は、検察事務官作成の前科調書及び当該判決謄本によつてこれを認める。

(法令の適用)

判示第一の所為につき道路交通法六四条、一一八条一項一号、六五条一項、一一九条一項七号の二、同法施行令四四条の三、刑法四五条一項前段、一〇条(重い無免許運転の罪の刑に従い、懲役刑選択)

判示第二の所為につき道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号(懲役刑選択)

判示第三の所為につき刑法二〇四条(懲役刑選択)

累犯の加重につき同法五六条一項、五七条

併合罪の加重につき同法四五条前段、四七条本文、一〇条、一四条(最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

未決勾留算入につき同法二一条

訴訟費用につき刑事訴訟法一八一条一項但書

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 藤野博雄)

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